先週の土曜日、 健康スポーツ医講習を受けてきました。お話は、インターバル速歩について。
メタボの対策として、歩く、という運動をしている人は多いけれども、ただ歩くだけでは体力の向上は期待できない。
インターバル速歩は、3分間、ややきついと感じる速度で早歩きをし、その後3分間、楽なペースで歩く、という反復を、30分~60分続ける、という歩き方で、これを週3回やることで、5か月で体力が20%向上する、というお話です。
・講師は能勢博先生
・信州大学、熟年体育大学リサーチセンターの施設長の方で
・登山が趣味、とのことでした。
・能勢先生の目指すところは、当院の理念と合致する部分が多く、
・とても参考になるお話だったのでここに内容をお伝えしたいと思います。
日本の問題:高齢化、医療費について
・まず、日本の高齢化、2030年には65歳以上人口が30%を超える(2000年には約15%)
・医療費は現在40兆円、2025年には52兆円、現在の国家予算92兆円からすると、高齢者医療は切り捨てていくしかない。
体力と加齢
・加齢とともに体力は減少する。身体活動量がピーク時の30%を切れば要介護の状態となる。
・トレーニングにより、活動的余命の延長を計る。
・体力とはここでは厳密には定義されないが、後にVO2peak値と同一視される。
個別運動処方が必要(誰でも彼でも一律一日10000歩では効果がない)
・厚生省が10000歩/日の歩行を推奨しているが
・一律同じ運動をしても効果がない(体力は向上しない)
・ACSMのエビデンスによれば、高強度の運動処方が必要
・高強度とは最大持久力の50%~80%の強度、頻度は20分以上/日x3日以上/週
・これを継続することで6か月で10%以上の体力の向上が得られる
・ACSMで中強度と高強度をミックスした運動が推奨されている。
・これにより考案されたのがインターバル速歩。
お金がかかることは万人向けではない
・レジスタンストレーニングに体力向上の効果があることは分かっている。
・しかし、トレーニングジムでの運動を継続するには、一般的に一人に20万/年の費用が必要となる
・お金がかかることは誰でもできることではない。
・かといってただ歩くだけでは体力は向上しない
・そこでインターバル速歩。
携帯型カロリー計
・3軸加速度計による力積、と気圧計による位置エネルギー変化を測定することで、高度変化も計算に入れた携帯型カロリー計を作成
・これにより、運動強度をリアルタイムで評価できる。
・このカロリー計をつけて、3段階に強度を上げる歩行を行うことで、VO2peakが測定できる。(?)-エルゴメーター&呼気分析によるVO2peak値との一致率を確認済み
・これにより、個々人の70%VO2peakが算出され、カロリー計にインプットされる。
・カロリー計で運動強度を確認しながら速歩ができる。
インターバル速歩の効果
・3分間の通常歩行+3分間の70%VO2peak強度速歩を反復して30~60分継続する
・6か月のインターバル速歩(30分/日x3日/週x6か月)にて膝屈筋力、膝伸展力が約20%、VO2peak値が約10%向上
・収縮期血圧が約10mmHg低下、血糖、BMIなどの生活習慣病指標も改善
・膝関節痛はむしろ改善、心血管系イベントは0件であった。
・166名の半年の追跡で、1名あたり、6か月間あたり、約23000円の医療費の削減(約20%)があった。
データの蓄積
・遠隔型個別運動処方システムe-Health Promotion System
・トレーニング継続と強度のチェック、さらに定期検査の結果もデータベースに蓄積
・これにより、被験者のモチベーション、運動強度の維持、およびインターバル速歩の効果のエビデンスを作成
・2005年585名でスタートし、2015年時点で継続されているのは103名であったが、データが蓄積された。
・現在総参加者3984名で事業は進行している
効果まとめ(インターバル速歩により)
・体力が20%向上
・高血圧、高血糖、肥満が20%改善
・医療費が20%削減
その他、インターバル速歩の効果を説明する仮説
・うつ自己評価尺度(CES-D)値の改善n=717
・分子生物学的裏付け:炎症促進遺伝子のメチル化亢進、炎症抑制遺伝子のメチル化抑制(メチル化=遺伝子の錆)
食品との併用(運動後の牛乳摂取)
・運動後の牛乳摂取を推奨する
・インターバル速歩+牛乳摂取により筋肥大を確認
・脱水症予防にも(血中アルブミン上昇が循環血液量維持に貢献)
感想・まとめ・問題点
・インターバル速歩が目指していることはウェルが目指していることと同じ
・強度の高い運動(≒レジスタンス運動)が、高齢化社会の問題解決に役立つ画期的な方策で、これを「若返りの秘法」というインパクトで全国的に展開していくこと。この点では、この能勢先生に我々は遅れをとっている、と言えます。
・ただし、エビデンスは、提出されたもののみを見る限りでは丁寧なエビデンスとは言い難い(本当に心血管系リスクは無かったのか、VO2peakが体力の指標ということでいいのか、医療費の計算は厳密に行われているか、分子生物学的な機序も説得力が小さいn=7)
・エビデンスが、広告、宣伝のために単純化され、要約されてしまっていることで、エビデンス自体に科学的なインパクトが伴っていないような印象を受けました。
・インターバル速歩の利点とされているところは要はレジスタンストレーニングで達成可能な内容です。
・また、5か月で20%体力が改善した後、10年間効果の上昇が無い、という点も不満です。
・体力=年齢、というのは納得ですが、可能であれば、現状維持にとどまらず、「若返り」をも目指すべき、と考えます。
・レジスタンストレーニングにお金がかかるか、プロテインが牛乳と比べてそれほど高いかどうか、もう少し検討するべきではないでしょうか。
・しかし、ジムに来れないような人には、インターバル速歩を推奨していく、というのは当院としても取り組んでいける活動とも考えます(事業提携には応じる構えがある、ということです)。
この情報を得て、うちはどう動くか
・これまでの活動に間違いはなかった、ということでレジスタンストレーニングの啓蒙を継続します。
・体力、若さの指標は、筋肉量なのか?VO2peakなのか?という疑問が残ります。検討していきましょう。
・どんなに役に立つことでもお金がかかることは、国民的な活動とはなり得ない、という指摘は当院としても検討すべき課題です。
・ウェルに来れない人にアドバイスを求められた場合は、インターバル速歩を薦めましょう。
当院スタッフ向けに内容をまとめたものですので、語り口が少しブログには不適切であったかもしれないことをここでお詫びします。
2017.1.19.加美川クリニック院長