当院では日本体力医学会の発行する「体力科学」という雑誌を購読しています。
今回6月号として「体力科学第66巻3号」が届いたのですが、その中の「教育講座」に興味深いテーマの講座がありました。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspfsm/66/3/66_209/_pdf
題名が「減量しながら筋肉量および基礎代謝量を高めることは可能か?」というもので、筑波大学の田中喜代次先生が寄稿された論文です。
内容は、フィットネスクラブや臨床現場で、体重を減らしながら筋肉量は増やし、それによって基礎代謝を挙げて、リバウンドしにくいダイエットをしよう、という指導が流行しているが、その実現可能性は低い、ということを解説するものでした。田中先生は、
まずは、筋肉量というものを厳密に測定することが、たとえDXAを使っても非常に困難であることを解説し、
その後、体重を減らしながら筋肉量を増やすためには①たんぱく質の十分な摂取②高強度レジスタンストレーニング③長時間の有酸素運動④糖質制限この4つをうまく組み合わせることが必要で、自己実現欲の旺盛なボディビルダーくらいにしか実践できないストイックな生活であり、実現可能性は低い、と説明されます。
さらにこのようなストイックな生活が本当に健康的と言えるかどうかが議論され、故障や怪我、精神の失調の原因となる可能性が示唆されます。
基礎代謝についても筋肉量1㎏の増加で増える基礎代謝量はたかだか13kcalであり、脂肪の1㎏の減少で基礎代謝が4.5kcal減少することと合わせて考えても、ダイエットで基礎代謝が大幅に増えるとは現実的には言えない、と説明。
健康寿命の伸長は、筋肉量だけでなく、身体パフォーマンスの改善からも議論されるべきで、筋肉量神話だけが流布されていることへの警鐘として講座は結ばれています。
この講座の論文に対する、私の意見を述べますと、
おっしゃることは確かにその通りだと思います。私も、メタボの患者さんに、筋肉を増やすことで基礎代謝が増える、という説明をずっとしてきています。また、当院ではDXAを使って筋肉量を測定していますが、DXAでは骨の部分の軟部組織も骨として計測されてしまうこと、体の厚みがある方ではどうしても誤差が出てくること、これらも考慮すべきだと勉強にもなりました。
ただ、ボディビルダーほどストイックな生活でなくても、取り組める強度のレジスタンストレーニングはあるのであって、筋肉量を増やすことが健康に良いのは、この論文を読んだところで、間違っているとは思いません。体重を減らしながら、筋肉量を増やすことは困難ではあっても、体脂肪を減らしながら、筋肉量を増やすことは可能なことであり、それは生活習慣病の改善に役立つことは、科学的にすでに立証されていることだと思います。
もう一度言いますと、この論文に対して私の言いたいことは、「体重を減らしながら筋肉量を増やす」ことは困難であっても、「体脂肪を減らしながら筋肉量を増やす」ことは可能なことだ、という点に尽きます。
さて、この夏も、ベストボディジャパンや、JBBFのフィジークの大会に出るために、職員を挙げて、減量と(正確には体脂肪を減らす、です)、トレーニングに励んでいる私ですが、これが本当に健康的な生活か、と聞かれると、肯定し辛いところがあります。
田中先生のおっしゃるように、自己実現欲、と言うのでしょうか、カッコよい身体になりたい、という気持ちがあります。大会に出て、それを他人に見てもらって賞賛されたい、という気持ちがあります。
そのために、ラーメンはもう3か月食べていません。朝と昼に少量の炭水化物を取りますが、それ以外はほぼたんぱく質か野菜を摂取するように心がけ、プロテインも一日3回は飲んでいます。こういう生活が一生続くとしたらどう思うか、自問することがありますが、やはり辛いと思います。今は期間を限って、一年のうち、半年か、長ければ8か月、こうした制限のある食事生活を送りますが、残りの4か月で自由に好きなものを食べる、オフを設けています。このオフが無い生活を一生続けられるかどうか、と言われると甚だ疑問です。
私自身は、職員にこう説明するようにしています。本当に健康な生活は、オンやオフが無く、一生続けられるような生活だと思うけれども、私たちは、メタボの人たちが「あんな身体になりたい」と思うような手本となる身体を作る必要があり、そのためには、多少健康を度外視してでも、インパクトのある身体作りをしなければならない。アスリートが必ずしも長命とは限らないように、インパクトのある身体作り、は健康的とは必ずしも言えないかもしれないが、健康寿命だけでは語り得ぬ、自己実現という側面での筋トレの楽しさを職員の同志の人たちと共有して行きたい。
他人から賞賛されたいから、身体作りをしているのか?自分が満足できる身体を作りたいのか?それならば大会で評価されなくても構わないのではないか、大会に出ないのであれば、健康を害さない範囲でドーピングを使用しても良いのではないか?など考えてしまうことはいろいろとあります。
私が筋トレにハマったのは20年前、トレーニングによって、自分の体の形が変わっていくことを実感し、それを面白い、と思ったこと。さらにある程度筋肉のついた身体を皆の前に見せることは、笑いであったり賞賛であったり、とにかく人々にインパクトを与えうる行動なのだ、と気づいたからでした。
何のためにそんなに筋トレをするの?と聞かれます。継続的にトレーニングをしている方は皆さん経験することではないかと思います。それは、健康のためであり、自己実現のためであり、面白いことだから、やるのです。皆さん、自分の面白いと思うことをやりますよね。それと同じことなのです。
ただ、もっと多くの人に分かっていただけるはずの面白さですし、ハマり過ぎなければ健康に良いことも立証されていることなので、なんとかそれを伝えることができれば、と日々、そのようなことを考えています。
少し取り留めもない記事になりましたが、田中先生の論文から以上のようなことを考えました。
2017.6.9.加美川クリニック院長