今年も残すところあと9日程度で終わりです。
今週初めにノバルティスという製薬会社の創薬担当の方とお話をする機会がありました。
話題はビマグルマブ(BYM338)という開発中の筋肉増強作用のある新薬についてです。
今日はその時に得た情報をまとめて、皆さんに提供しようと思います。
ビマグルマブというお薬は、作用機序からするとアクチビンタイプ2受容体拮抗薬、ということになります。
生体には筋肉が発達するのを阻害する因子がありまして、これの代表的なものがミオスタチンです。ミオスタチンは筋肉の受容体に結合することで成長阻害作用を発揮しますが、その受容体がアクチビンタイプ2受容体です。以前は抗ミオスタチン抗体というものも開発されましたが、それよりも、アクチビンという物質ともども受容体でブロックするほうが、筋肉の発達効果が高いことが分かっているのです。
私は、現在一般的である筋肉増強薬剤のテストステロンより、このミオスタチンを阻害する薬のほうが、副作用なく、筋肉増強効果を得られる、ということで期待しています。そこでその開発状況を知るために、ノバルティスにコンタクトを取りました。
そして現在わかっていることは以下のような内容でした。
・ビマグルマブは、現在二つの臨床研究が行われた。一つは封入体筋炎に対する運動機能改善を目標とした治験、もう一つはサルコペニアに対する筋肉増強作用を目標とした治験。
・封入体筋炎の治験は第3相(治験の最終段階。これをクリアして厚生省に認められると薬としての認可が降りる)まで行われたが、最終目標である運動機能で有意な効果が認められなかった。SPPBという別の指標や、筋肉増強効果については(3~5%)の有意な効果を認めたのだが、最終目標である部分で有意差が出なかったので、薬として認可されることは難しい。
・なぜ封入体筋炎で治験を行ったかという理由は、症例数が少ないために、小規模で臨床試験を組むことができ、また難病で他に治療法がないため、認可が早期に降りる可能性が高かったため。
・サルコペニアでの治験は現在第2相まで進んでいる。大学病院の老年科を中心に症例をエントリーしてもらっているため、当院のような一般の診療所に治験のエントリー依頼が回ってくることは無い。
・ビマグルマブは最も早く話が進んで、2023年に治療薬としての認可が下りる可能性がある。
・スイスにある本社の会社でビマグルマブは製造しているが、すでにWADA(世界アンチドーピング機構)からビマグルマブの検査方法についてWADAに教えるよう依頼があった。トップアスリートを国ぐるみで育てているような国は、開発中の薬すらドーピング用に利用するので、その対策が取れる様にするためらしい。
・ビマグルマブの投与方法は抗体製剤ということもあり、現在は静脈注射のみ。皮下投与製剤も現在開発中。
・封入体筋炎の治験において、投与間隔は1か月に1回で13か月投与したところ、コントロール群に比べて、LMD(除脂肪体重≒筋肉量)が、3mg/kgの投与群では3.3%,10mg/kgの投与群では5.8%と用量依存性に増加した。
・副作用として多くみられたものは筋痙攣、下痢、にきび、であったが、これはトレーニング、プロテインなどの他のサプリメントの影響も考えられた。
・治療薬としてではなく、トレーニーのためのサプリメントとして開発したほうが、需要が大きいのではないかという意見は社内にもあるが、薬としての認可が下りるかどうかが試されたのちでなければ、サプリメントとしての開発はスタートできない、という事情がある。もし、薬として治験の効果が思わしくなければ、ライセンスアウトして、他の会社に特許を売却し、サプリメントとしての開発を依頼する形となるかもしれない。
だいたいこのような情報を得ました。当院としては積極的に治験に参加し、サルコペニア、および健常人におけるビマグルマブの効果を当院から立証していくことに非常に乗り気であったために残念でしたが、この薬が世の中に出てくるにはまだ5-10年程度はかかりそうです。
今後も開発状況に注目し、当院として関われる部分があれば積極的にかかわっていきたいと考えています。
2016.12.22.加美川クリニック院長