梅雨なのに雨の少ない6月です。ケトジェニックダイエット中です。
今回は、筋肥大における、トレーニングと栄養の効果、についての、最新の総説をご紹介したいと思います。筋肥大や健康については、いろいろな雑誌で、「こうするのが良い!」と取り上げられており、皆さん興味深くその記事を読むと思いますが、出典がはっきりしており、真に科学的と言えるのは、これから私が紹介するような雑誌の記事と言うことになります。この論文は2017年3月にアクセプトされた総説で、かなり最新の情報と言えるのではないでしょうか。
今日は、JPFSM誌第6巻のp119~124の記事
「レジスタンストレーニングと栄養摂取による骨格筋肥大のメカニズム」を和訳しようと思います。この論文は立命館大学スポーツ健康科学部の阿藤聡先生と藤田聡先生の執筆に寄ります。
日本人の書いた英文を和訳する、ということに、幾分か徒労を感じますが、知りたい内容なので仕方ありません。
・要旨:骨格筋は糖代謝制御と移動能力のために必須となる臓器である。であるから、筋肉量を増やすことはスポーツのパフォーマンスのみならず、健康にとっても重要となる。過去10年にわたってレジスタンストレーニングが筋肉量を増やすのに最も効果的な方法であることが示されてきた。急速なレジスタンストレーニングは筋肉におけるタンパク合成を促進し、トレーニングの反復はタンパクの蓄積と筋肥大を起こす。同様に骨格筋量制御におけるタンパクの合成は栄養、特にたんぱく質とアミノ酸の摂取も重要な要素となる。さらに最近の研究ではレジスタンストレーニングと栄養摂取の組み合わせが、それぞれの単独よりもタンパク同化効果が高い、という議論がある。このレビューではトレーニングと栄養摂取の基礎にあるタンパク合成の機序について概説し、最新の知見に基づき、タンパク合成を最適化する刺激について推奨を行う。最後に、筋におけるタンパク合成において、レジスタンストレーニングに栄養学的サプリメントを組み合わせることについての最近のエビデンスを取り上げる。
・導入:骨格筋量はスポーツ、特にパワー出力がパフォーマンス向上のために要求されるスポーツにおいて必須の要素となる。高齢者の健康を維持するうえでも骨格筋量の維持が重要となり、これにより、転倒の予防、糖尿病、心血管疾患の予防にもつながる。このレビューでは、栄養摂取とトレーニングにおける分子学的なタンパク合成のメカニズムを議論し、効果的なタンパク合成のためのこれらの刺激の組み合わせについて最近の科学的発見に基づき、詳述する。
・たんぱく質/アミノ酸摂取によるタンパク同化反応
筋におけるタンパク合成速度は、たんぱく質、またはアミノ酸の投与後1時間以内に劇的に上昇する。タンパクは消化管で消化吸収されたのち、循環血液によって骨格筋に輸送される。筋肉内のアミノ酸は自由に利用できるアミノ酸として貯蓄され、適切な条件下で筋タンパク合成に利用される。以前は、必須アミノ酸が筋合成の刺激をに関係し、非必須アミノ酸はタンパク同化作用を持っていない、と報告されていた。最近の研究では分岐鎖アミノ酸のロイシンがタンパクの構成材料であるだけでなく、食欲の調節、インスリンの分泌、筋タンパク同化にも関係する、重要なアミノ酸であることが分かった。
ロイシンは哺乳動物におけるラパマイシン複合体1の標的(mTORC1)刺激経路を活性化させ、その後、mRNA転写を介してタンパク合成を活性化する。どのようにロイシンが感受され、mTORC1が骨格筋で制御されているのかは、以前はほとんど解明されていなかった。しかし、最近Wolfsonらによる研究により、セストリン2がロイシンの受容体として働くことがわかった。セストリン2はロイシンの結合により、GATOR2(GTP分解酵素の複合体)から解離し、それによってGATOR2を活性化する。その結果、mTORC1の活性化が引き起こされる。筋肉細胞内のアミノ酸濃度は循環血液内の濃度を反映する。そのため、血中アミノ酸濃度の上昇がロイシン受容体と筋タンパク合成の刺激には必須となる。
以前の報告では、若者において、急速な筋タンパク合成を促進するのに必要な最低限のタンパク量は0.26g/kgとされている。この研究では被験者は高品質プロテイン(ホエイと卵タンパク)を空腹状態で投与された。それゆえ、脂肪等、別の栄養素も混ざった典型的な食事の場合は、0.26g/kgより多くのタンパク摂取が必要と考えられる。通常の食習慣においては、三食におけるタンパク摂取は、夕食で多く、昼食と朝食では少ない傾向にある。各食事におけるタンパク摂取が重要であるが、特に睡眠と言う長い空腹時間に引き続く食事である朝食のタンパク摂取をより上昇させるべきである。
・急速なレジスタンストレーニングによる筋タンパクの回転率
急速なレジスタンストレーニングは、その機械的な刺激、すなわち収縮性に惹起される成長因子および代謝性のストレス、により、mTORC1の活性化とリボソームの生合成を引き起こす。その結果mRNA転写が加速され、筋タンパク合成の増加が起こる。急速なレジスタンストレーニングは筋タンパクの破壊も促進する。しかし、収支としては、トレーニング後の筋タンパク合成は、筋タンパク破壊を上回り、筋タンパクは増加する(訳者注記:図1のグラフでは、しかし、ネットバランスはネガティブとなっているように見える)。過去の研究によりトレーニングによる筋タンパク合成の増加はトレーニング後48時間にわたって継続する。これにより、慢性的にトレーニングを行うことにより、筋タンパクは蓄積し、骨格筋の肥大が起こる、と考えられている。
・レジスタンストレーニングによるタンパク同化に影響を及ぼす因子
トレーニングの様々な要素、すなわち、トレーニング量(力―時間積分値)、トレーニング時間、収縮様式、がトレーニング後のタンパク合成率に影響を及ぼす、と報告されている。何が優位に影響を与える因子なのか、過去、多くの研究により調査された。
トレーニング強度:Kumarらはトレーニング強度に焦点を当て、トレーニング強度は1RMの20%~60%でタンパク合成が最適化される、とした。同じトレーニング量(訳者注記:volumeとされている。レップ数x%RMが同じ、という意味なのか?)では、1RMの60%を超えるとタンパク合成率が下がっていく、と報告している。Burdらは量を等しくしたレジスタンストレーニングで、30%1RM施行群と90%1RM施行群のタンパク合成率を比較することで、このことを立証した。
トレーニング量(力―時間積分値):トレーニング量(つまり、総拳上重量の合計)もタンパク合成率に影響する。Burdらは70%1RMの1セット施行群と3セット施行群を比較し、トレーニング後29時間の時点において、3セット施行群の方が1セット施行群よりもタンパク合成率が高かったことを示した。さらに興味深いことに、Burdらは施行限界まで行うトレーニングで、30%1RM施行群、90%1RM施行群を比較し、タンパク合成率は30%1RM施行群で高かったことを示したのである。それゆえ、最近の研究では、筋タンパク合成促進に必要なのは、1回拳上重量を増やすよりも、総拳上重量を増やすことだ、ということが示唆される(図2)。
・慢性的なトレーニングに対する身体の適応
上でのべたように、トレーニングでは総拳上重量を増やし、施行限界まで行うことが、一回拳上重量を挙げることよりも、筋タンパク合成には有効である。レッグエクステンション(週に3回、3セット、施行限界まで)30%1RM施行群と80%1RM施行群で10週間の効果を比較した研究でも、この結果が支持された。それ以上に、熟練したトレーニーにおいても、施行限界まで行う、ということの筋肥大への効果は、トレーニング強度とは独立した促進要素として観察されたのである。要約すると、最近の研究では、骨格筋の筋量増加は、低重量で施行限界まで行うトレーニングで、高重量のトレーニングと同程度まで起こる、と言うことがいえる。
・レジスタンストレーニングとタンパク摂取の組み合わせによるタンパク同化の効果。
たんぱく質・アミノ酸摂取による筋タンパク合成促進は摂取後数時間しか続かない。それに対して、レジスタンストレーニングによる筋タンパク合成促進の効果は48時間続く。以前より、多くの研究グループが急速なレジスタンストレーニング後のタンパク摂取が、トレーニング単独、タンパク摂取単独よりも、より強力で、相乗的な筋タンパク合成促進を起こすことを示してきた。もっとも効果的なタンパク摂取のタイミングは運動の直後であり、その相乗効果は時間によって減衰していく(図3)。この効果が最も強いのはトレーニング直後であるが、相乗効果自体はトレーニング後48時間は起こる、と期待できる。事実、ある研究で、強度を変えた群間比較を行う、トレーニング後24時間のタンパク合成を比較する研究で、筋タンパク合成は、24時間後であっても、たんぱく質摂取を組み合わせた群、トレーニングのみのどの強度の群よりも、明らかに促進されていた。興味深いことに、トレーニング24時間後の、タンパク摂取による筋タンパク合成促進効果は、トレーニングが施行限界まで行われていれば、トレーニングの強度が違っても、差は無かった。これは、トレーニングと栄養摂取の相乗効果がトレーニングの強度によらず、一日中維持されることを示している(図4)。これらの結果は、トレーニングと栄養摂取の相乗効果を最大限にするためには、トレーニング直後のタンパク摂取だけでなく、その後も習慣的にたんぱく質を摂取すること推奨する根拠となる。
・たんぱく質の原料の違いによる効果
いくつかの研究ではトレーニングと摂取するタンパクの原材料の違いによる効果を報告している。すなわち、ホエイとカゼインを含む牛乳、大豆たんぱく、卵白、牛肉のタンパク摂取により、トレーニングとの組み合わせで、トレーニング単独より筋タンパク合成が促進される、と報告されている。同量のたんぱく質含有量であっても、原料によって差はあるようである。これはおそらく、原料によって、タンパク中のロイシン含有量が異なるためと、消化吸収のスピードが異なるためであろう。牛乳由来のタンパクは、大豆由来のタンパクよりも高濃度のロイシンを含む。このため、トレーニング後のタンパク摂取において、牛乳由来タンパクは、大豆由来タンパクより、筋タンパク合成促進効果が大きい。それゆえ、トレーニング後の筋タンパク合成を十分に狙うなら「プロテインの質」を考慮することも重要である。ホエイとカゼインを比較した場合、ホエイは酸性のため吸収が早いが、カゼインは胃酸の中で凝集・沈殿するため吸収が遅く、血中ロイシン濃度はホエイの方が高くなる。ホエイとカゼインで筋タンパク合成率を比較したところ、安静時においても、トレーニング後においても、ホエイの方が促進効果が高かった。であるから、我々がタンパクを食事もしくは機能性食品として摂取する場合、その消化吸収速度も考慮する必要がある。
・トレーニング後の至適タンパク摂取量
筋肉細胞内ロイシン濃度が、濃度依存性に、筋タンパク合成を促進する。この合成促進はタンパク投与量にも依存する。研究によれば、トレーニング後の、ホエイを原料としたプロテイン摂取で、投与量が20~25g(ロイシンにして2.5~3.5g)になるまで、投与量を増やすほど、筋タンパク合成は比例的に増加した。この結果は、下肢のトレーニングを行った、体重70~80㎏の若者を対象にした研究によるものであって、この値は、50㎏の長距離走選手と100㎏のボディビルダーというように、体重の異なる対象であれば変わってくるものと考えられる。
・結論
スポーツ栄養学において、筋タンパク合成と破壊がアミノ酸の放射性同位元素を使ったトレーサーで直接的に計測できるようになったことは、タンパクの代謝を知る上で目覚ましい貢献となった。運動と栄養の組み合わせによる、タンパク同化の効果を見極めることは、より効果的なエクササイズと栄養摂取のプログラム作成に繋がり、これはひいてはアスリートのパフォーマンス向上と高齢者のサルコペニア予防改善に役立つことである。レジスタンストレーニングと栄養摂取の組み合わせは効果的な筋肥大のために必要であり、トレーニング期間中の十分なタンパク摂取と機能性食品の摂取が、トレーニングへの身体の最大の適応を引き起こす。
COI
以上で和訳を終わります。
個人的感想を言えば、あまり目新しい情報は無かった、というのが正直なところです。
トレーニングの負荷は、30%1RMでも施行限界までやればよい、とのことですが、現在のトレーニング界で言われているのは、筋力アップ、筋伸展破壊、乳酸パンプの三種類のトレーニングが筋肥大に必要、とのことであり、この辺りに関して何も言及がなかったのが残念なところです。
さらにロイシンが重要なのは良いとして、前々回の私がブログで取り上げた、HMBについても2014年のタンパ大学からの論文をどう見るのか、専門家の意見を聞きたかっただけに、HMBについても一切言及がなかったのが残念です。
このように、科学で確実に保証されるエビデンスは、いつも世の中に出回っている様々な噂の数歩後ろを踏み固めながらついてくる感じです。しかし、科学を根拠に進歩してきた職業に勤める以上、どの情報がより信頼できるのか、皆さんによりよい情報を提供していくのが使命と、考えています。
2017.6.22.加美川クリニック 院長